殺人と過失致死の大きな違い~「未必の故意」と「認識ある過失」~
8月16日午後9時30分ころ、豊島区東池袋の歩道に乗用車が乗り上げ、歩行者をはねながらビル1階の衣料品店「ZARA」に突っ込むというショッキングな事件が発生しました。この事件により、板橋区在住の女性が亡くなったとも報道されています。
池袋と聞いて、「またか」と思った方も多いかと思います。
池袋では去年の6月にも脱法ハーブを吸った男が無謀な運転をして7人が死傷する事件も発生しています。
今回、自動車運転処罰法違反で逮捕されたのは、北区在住の医師とのことですが、「疲れていて居眠りしてしまった。運転していたのは間違いないが、歩道に突っ込んだのは記憶がない」と供述しているようですが、現場にはブレーキ痕もなく、人をめがけて突っ込んだと言われても言い訳ができないような状況とも言えます。
ところで、このような死傷事故は、飲酒、脱法ハーブ吸引などを伴ったどんなに危険な運転が原因であっても、原則は「過失」であり、「殺人」にはなり得ません。 しかし、人知不詳になるまでアルコールを飲んで運転すればどうなるか、混雑した歩道に自動車がノーブレーキで突っ込めばどんな悲劇が起こるか、通常の人間であれば即座に理解できるはずですし、このような場合であっても「過失」に過ぎないというのでは、納得がいかない方も多くいるかもしれません。
「故意」と「過失」
さて、「殺人」と「過失致死」において、何が違うかというと、簡単には「故意」と「過失」の違いなのですが、さらに、「故意」と「過失」の間には、「未必の故意」と「認識ある過失」というカテゴリーが存在します。
まず、「未必の故意」とは、実際に事件(犯罪)が発生するかどうかは不確実であるが、その自らが想定した事件(犯罪)が実現されると認識し、さらにそれを認容している(すなわち、結果の発生を認める)場合を意味します。
次に、「認識ある過失」ですが、これは、同じく実際に事件(犯罪)が発生する可能性は認識していても、その事件(犯罪)は発生しないであろうと考えた(すなわち、結果の発生を認めない)場合を意味します。
例えば、公園でバットの素振りをしてる場合において、
「近くの小学生にぶつかるかもしれないが、これだけ離れていれば大丈夫だろう」
と思っていたにもかかわらずぶつかってしまった場合は「認識ある過失」となり、
「近くの小学生にぶつかるかもしれないが、これだけ離れていてもぶつかってしまったら仕方がない」
と思っていた場合は「未必の故意」となります。
刑法は「犯罪を犯す意思(刑法38条1項)」を故意犯として重く処罰し、過失犯は、法律に特別に規定のある場合以外は犯罪とされないことから、この違いはとても大きなものとなります。
故意の立証
今回の池袋の事故も、「歩道に突っ込んで、人を死傷させても仕方がない」と思っていたなら「未必の故意」として殺人罪、傷害罪となる可能性も出てくるでしょうが、大抵の場合、「人が死傷するとは思わなかった(認識を否定する)」、「人が死傷するかもしれないと思ったが、死傷することは望んでいなかった(認容を否定する)」と言い訳しますし、人の頭の中を立証することはほぼ不可能ですので、「過失」となってしまうのです。
まとめ
もちろん、このような事態を想定し、昨今、「故意犯」による処罰とまではいかなくても、飲酒、脱法ハーブ吸引などを原因とする交通事故を厳しく処罰する法改正がなされており、例えば、「殺人罪」の法定刑は死刑、無期、5年以上20年以下の懲役ですが、飲酒や薬物で正常な運転ができない状態で死亡事故を起こした場合は1年以上20年以下の懲役とされています。 このように、「未必の故意」と「認識ある過失」は、実に”紙一重”であるにもかかわらず前者の立証は極めて難しいのですが、法定刑でバランスをとっていると考えることもできます。
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